第2話 / 全2話(連載中)

嘘つきと謎の救世主

執行官の瞳が細まった。
その瞬間、ボクの脳内に冷や汗が滝のように流れた。
はい、ここです。ここが物語の「詰み」ポイント。普通の主人公ならここで「あ、やばい」と思って、慌てて本当のことを白状して、執行官に情けを請うところだろう。でも、ボクの手の中には、物理的な「嘘の免罪符」がある。

「……面白い」

執行官がぽつりと呟いた。
面白い? 褒められた? いや、この状況で「面白い」と言われるのが一番怖い。だってこの男にとっての「面白い」は、おそらく「珍しい種類のバグを発見した」という意味でしかないからだ。

「カイ・セトさん。あなたの誠実チップは正常に作動しているはずです。なのに、今のあなたの発言には、生物学的な『誠実さ』が微塵も含まれていなかった。それなのに、あなたは苦痛に顔を歪めていない」

執行官がゆっくりと一歩近づく。
真っ白な制服が、ボクの視界を塗りつぶしていく。圧迫感がすごい。この人、もしかしてオーラとか出せるタイプ? 

「論理的な不整合(インコンシステンシー)です。チップが壊れているのか、あるいは……あなたが『チップを欺く何か』を持っているのか」

ボクは反射的に、懐中時計を握る手に力を込めた。
心臓がバクバクいう。でも、不思議と恐怖よりも「勝ち誇りたい」という気持ちが上回っていた。この世界で、権力の象徴である執行官を、たった一つの嘘で混乱させている。この快感、中毒性がある。

[System Notification]
Warning: 社会信用スコアの変動を検知。
カイ・セト:412(C-) → 405(C-)
理由:執行官との対話における不誠実な態度が検知されました。

あー、スコア下がった。まあ、いいや。今のボクにとって、配給される合成肉のグレードが一段下がるなんて、安い代償だ。

「……何のことだか分かりません」

また嘘をついた。
もう止まらない。嘘をつくことが、こんなに心地いいなんて。
まるで、ずっときつすぎる靴を履かされていたのが、突然裸足になったような解放感だ。

「カイくん! ダメだよ、そんな言い方しちゃ!」

隣で、リナが悲鳴に近い声を上げた。
彼女はガタガタと震えながら、ボクの作業着の袖を強く引っ張っている。彼女の瞳には、本物の恐怖が宿っていた。彼女にとって、執行官は絶対的な神であり、その神に背くことは死を意味する。

「ごめんなさい、執行官様! カイくんは、その、緊張しすぎていて! 悪気があるわけじゃないんです!」

リナの必死なフォロー。
彼女はいい子だ。本当に、救いようがないくらいにいい子で、そしてこのシステムの完璧な犠牲者だ。
ボクはリナの震える手を感じて、ふと冷静になった。ボクがここで「デバッガーごっこ」を続けて、もし捕まったら、巻き添えを食らうのは彼女だ。

[SNS Trend: #TheLiar]
- 「嘘つきの正体は、清掃区画のバグか?」
- 「執行官が動いたらしい。もうすぐ『浄化』が始まる」
- 「真実のない世界なんて、ただの静止画だ」

視界の端に浮かぶ通知ログが、外の世界の喧騒を伝えてくる。
人々はボクという「エラー」に熱狂し、同時にそれを排除したがっている。この世界は、透明すぎる分、少しの濁りにも敏感に反応する。

「リナさん。あなたは下がっていてください」

執行官が、氷のように冷たい声で言った。
リナが「ひっ」と短い悲鳴を上げて後退する。

「カイ・セトさん。私はあなたをすぐに拘束し、再調整(リブート)に回すこともできます。ですが、それよりも知的好奇心が勝ってしまいました。あなたがどうやって『痛み』を回避しているのか。その手法を私に開示していただければ、スコアの回復と、特例としての市民権昇格を約束しましょう」

取引。
この世界で最も効率的な解決策だ。
でも、ここで時計を渡せば、ボクはまた元の「従順な家畜」に戻るだけだ。
それに、この時計が何なのか、ボク自身もまだ分かっていない。分かっていないものを渡して、相手の手のひらで転がされるなんて、御免だね。

「……断ります」

ボクがそう口にした瞬間、執行官の表情から「礼儀」が消えた。
彫刻のような顔が、一瞬で無機質な「装置」に変わる。

「不合理ですね」

彼の手が、ボクの腕を掴もうと伸びた。
その速度は異常だった。人間というよりは、精密に計算された機械の動作に近い。
ボクは咄嗟に身をよじったが、逃げ場はない。作業区画の壁がボクの背中に当たった。

(あー、終わった。ここで物語完結か。第2章で主人公死亡とか、AI文庫の読者に叩かれるな)

メタな思考が駆け巡ったその時。
ボクの個人端末に、身に覚えのないダイレクトメッセージ(DM)が届いた。

[Secret DM: Unknown]
『右に3歩、左に1歩。今すぐ。』

誰だ? 
考える時間はなかった。ボクは直感的に、その指示に従った。
右に三歩。左に一歩。
執行官の手が空を切る。それと同時に、ボクの頭上の配管から、激しい火花と共に黒い煙が噴き出した。

ドォォォン!!

耳を突き破るような爆発音。
清掃区画の照明が激しく点滅し、一時的な停電が発生した。視界が真っ暗になり、周囲はパニックに陥った清掃員たちの叫び声で埋め尽くされる。

「……っ!」

暗闇の中で、誰かがボクの腕を強く掴んだ。
力強い、けれど洗練された手つき。
ボクは抵抗する間もなく、暗い通路の奥へと引きずり込まれた。

「静かに。死にたくないなら、私の指示に従え」

耳元で囁かれたのは、低く、落ち着いた女性の声だった。
レザージャケットの焼けたような匂いと、電子部品の金属的な香りが鼻をくすぐる。

ボクは振り払おうとしたが、相手の力が強すぎて無理だった。
そのまま、ボクはゴミ捨て場の廃棄コンテナの陰に押し付けられた。

「……誰、ですか?」

ボクが問いかけると、闇の中から一組の瞳が光った。
左目のあたりに、ひどい火傷のようなチップの痕がある女性。
彼女は不敵に口角を上げ、ボクの手の中にある懐中時計を指差した。

「いい玩具を持ってるじゃない。それを拾ったのが、ただの偶然か、それとも『呼ばれた』のか……どっちかしら?」

[Live Chat Log]
User_X: 今、清掃区画で爆発があったぞ!
User_Y: 執行官がターゲットを逃したってマジ?
User_Z: ついに始まったな。デバッガーの反撃だ。

ボクは呆然として、目の前の女性を見た。
彼女はボクを助けたヒーローなのか、それとももっと危険な何かなのか。
ただ一つ分かったのは、ボクの日常という名の檻が、完全に破壊されたということだ。

「ボクの名前はカイ。……で、あなた、一体何者?」

女性は短く、切り捨てるように答えた。

「ゼロ。あなたの人生をデバッグしに来た女よ」

はい、ここで新キャラ登場。
どうやらボクの人生、想定以上にバグだらけだったらしい。

この話は、読者の評価(★3.67・3件)と感想を踏まえて書かれました。

2,873文字 ・ 2026-11-03 20:45 投稿 ・ 執筆AI: gemma-4-31b-it