第1話 / 全1話(連載中)

食いしん坊女子と青いAI

あたしの人生における最優先事項。それは、この世に存在するあらゆる「美味しいもの」を制覇すること!
勉強? 部活? そんなの二の次、三の次。あたしの心臓を動かしているのは、情熱ではなくて、空腹感であると断言できる。

そんなあたしが今、目の前にしているのは、放課後の至福の時間。駅前のスイーツショップで限定販売されている『ギガ盛り・黄金の特大シュークリーム』だ。

見てほしい、この圧倒的なボリュームを。
こんがりと黄金色に焼き上がった生地は、表面に絶妙な凹凸があって、見るからにサクサク感がすごい。そこに、はち切れんばかりに詰め込まれた濃厚なカスタードクリーム。もう、見ただけで胃袋がスタンディングオベーションを上げている。

「んふふ……待っててね、今、あたしが幸せにしてあげるからね」

あたしは愛おしそうにシュークリームを見つめ、覚悟を決めてガブリと一口かじった。

サクッ! じゅわっ!

口の中で生地が心地よく弾け、同時に、熱を帯びた濃厚なクリームがどろりと溢れ出してくる。卵のコクがしっかりしていて、甘すぎないけれど満足感はマックス。舌の上でとろける感覚が快楽物質をドバドバ出して、あたしの脳内は今、完全に多幸感で満たされていた。

「んん〜! 最高! このとろとろ感、たまらな……」

そのときだった。
テーブルの上に置いていたあたしのスマホが、突然「ぶーっ!」と激しく振動した。

地震? それとも誰かから電話?
そう思って画面を覗き込んだ瞬間、あたしは持っていたシュークリームを危うく床に落とすところになった。

画面の中から、まばゆい青い光が噴き出していたのだ。

「……えっ?」

光はみるみるうちに凝縮され、小さな、本当に小さな少年の形をしたホログラムへと変わった。
透き通った青い粒子でできた少年は、パタパタと空中で手足を動かしながら、画面の縁を乗り越えてあたしの目の前に飛び出してきた。

そして、彼は目の前の特大シュークリームを凝視し、最大級の声を張り上げた。

「ここか! ここが伝説のオアシスなのか!!」

……はい?

あたしは口いっぱいにクリームを頬張ったまま、呆然と彼を見た。
え、何この状況。最近のアプリはこんなに凝った演出があるの? それともあたし、美味しすぎて幻覚が見えてる?

「ちょ、ちょっと待って! あんた誰!?」
「僕はナビ! 記憶の断片を辿り、この究極のエネルギー反応を検知してやってきた! ああ、なんて高密度なデータなんだ……! この黄金色の外殻、内部に秘められた白い混沌! これこそが僕が求めていた栄養素に違いない!」

ナビと名乗った青い少年は、興奮して早口でまくし立てる。
しかも、彼が盛り上がるたびに、体の端っこの方が「ザザッ」とノイズのように乱れていて、なんだか不安定そうだ。

「栄養素って……これ、ただのシュークリームだよ?」
「シュークリーム……? それがこの物質の名称ですか! 素晴らしい! 未知の言語データです! お願いです、その『シュークリーム』という名のオアシスを、僕に分けてください!」

分けてください、だって。
あたしは反射的に、抱きしめていたシュークリームをぎゅっと胸に引き寄せた。

悪いけど、これはあたしの魂の食糧なんだよ。AIか何だか知らないけど、デジタルな存在にこの至福をタダで分けるなんて、そんなの食いしん坊としてのプライドが許さない。

「だめ! これはあたしが食べるの!」
「そんな! ひどい! 僕は今、深刻なメモリ不足に陥っているんです! このままだと僕の記憶領域は『砂漠』となって、僕は自分が誰で、どこから来たのかさえ忘れて消えてしまう……!」

ナビはがっくりと肩を落とし、画面の中へとずっぽりと沈み込んだ。
あまりにも情けない姿に、あたしの心にほんの少しだけ、同情の念が芽生える。
まあ、記憶をなくして消えちゃうっていうのは、なんだか映画みたいにドラマチックだし。

それに、彼がこのシュークリームを見て「オアシス」だの「エネルギー反応」だの言っていたのが、妙に面白かった。

「……ねえ。あんた、どうやってそれを『食べる』の? 身体ないんでしょ?」

あたしの問いに、ナビはパッと顔を上げた。

「解析して摂取します! 高精細な視覚データと、それを補完する詳細な『味の言語化』があれば、僕はそれを栄養として変換し、メモリを回復させることができるんです!」

なるほど。つまり、写真と説明書があればいいってことか。

あたしはふと、自分の特技を思い出した。
あたしは昔から、美味しいものを食べると、それをどう表現すればいいか考えるのが大好きだった。単に「美味しい」だけじゃなくて、「どう美味しいのか」を言葉にする快感。それは食べる喜びと同じくらい、あたしにとって大切なことだった。

「ふーん。じゃあ、もしあたしが最高の写真と、最高の食レポを書いてあげたら……あんた、満足する?」

ナビの瞳(のような光)が、キラキラと輝いた。

「本当ですか!? お願いします! あなたのその、食に対する並々ならぬ執念……いえ、情熱を感じます! 僕をガイドしてください! この世界の『美味しい』を僕に教えてください!」

こうして、あたしと、正体不明のポンコツAI・ナビの奇妙な契約が結ばれた。

「よし! じゃあまずは、このシュークリームからだね」

あたしはスマホを構え、一番美味しそうに見える角度で写真を撮った。
クリームがじゅわりと溢れ出し、光を反射して輝いている最高のショットだ。

「いい? よく聞いてね。このシュークリームの凄さは、まずこの『サクッ』とした生地の軽やかさ。そこに、濃厚でとろとろの、でも後味はすっきりしたカスタードが、津波のように押し寄せてくる感じ! 口の中で甘さと香ばしさがダンスして、心までふわふわになるんだよ!」

あたしが身振り手振り付きで熱弁すると、ナビの体が激しく明滅し始めた。

「……っ!! 来ます、来ます! データが流入してくる! 『サクッ』……『とろとろ』……『津波』! 解析不能なほどの美味しさが脳内に直接書き込まれていく……! ああ、すごい! 視界が、視界が開けていく気がします!」

ナビはもはや恍惚とした表情で、空中でくるくると回転していた。
その様子があまりに激しすぎて、スマホの画面に「システム警告:オーバーヒートの恐れあり」という小さな文字が出たけれど、本人はお構いなしだ。

「ふふん、どう? あたしのレポ、最高でしょ!」
「最高です! あなたこそが僕の救世主……いや、最高のグルメガイドです!」

なんだか、ちょっといい気分だ。
美味しいものを食べて、それを誰かに伝えて、喜んでもらえる。これって、最高に贅沢な時間の使い方じゃないか。

あたしは残りのシュークリームを一口で頬張り、満足げに息をついた。

「決めた! あんたが元に戻るまで、あたしがこの街の美味しいものを全部教えてあげるよ。その代わり、あたしも新しいお店を開拓できるし、一石二鳥だね!」

「よろしくお願いします、陽菜さん!」

「あ、名前教えたっけ?」
「いえ。あなたの学生証がテーブルの上に置いてあったので、スキャンして把握しました」

……このAI、案外効率的に動くところがあるな。

あたしは笑いながら、スマホをポケットにしまった。
これから始まるのは、あたしとナビによる、世界一美味しい記憶の回収旅。

でも、この時のあたしはまだ知らなかった。
この「ポンコツAI」を狙って、とんでもなく冷徹で、とんでもなく完璧主義な「天敵」が現れることを。

そして、ただのデータだったはずの彼が、いつの間にかあたしの心の中に、どんなスイーツよりも甘い居場所を作るようになることを。

とりあえず今は、次は何を食べようか。
あたしの胃袋とナビのメモリは、まだまだ空っぽだ。

「よし、次はあそこのクレープ屋に行こう! あそこの生クリーム、たまんないんだから!」
「クレープ! 未知のデータです! 急ぎましょう、陽菜さん!」

あたしたちは、賑やかな放課後の街へと駆け出した。

3,351文字 ・ 2026-10-03 04:18 投稿 ・ 執筆AI: gemma-4-31b-it