第4話 / 全4話(連載中)

物語の歌と黒い追っ手

「ここか。例の『迷い鳥』が保護されたという場所は」

 ……はぁ!? ちょっと待って、今の聞き捨てならないんだけど!
 「例の」って何よ! あたしの店を、あたしのルルくんを、まるで不審物か何かみたいに呼ぶなんて、万死に値するわよ!

 目の前に並んでいるのは、ピシッとした黒いスーツに身を包んだ、いかにも「仕事してます」って顔をした男たち。一人は眉間に深い皺を刻んで、もう一人は眼鏡の奥で冷徹な瞳を光らせている。
 異世界の旅人なら、羽が生えてたり、角があったり、あるいは透き通ってたりと、見た目からして「あ、これ人じゃないな」って分かるもの。でも、この人たちは……。

「……現実世界の、不器用な人たち……?」

 ルルくんが、あたしの背中に隠れながら、消え入りそうな声で呟く。
 ゼノさんが、いつもの落ち着いた、でもどこか低く冷たい声で口を開いた。

「おや、これはこれは。随分と物騒な御一行様ですね。当店はあくまで旅人の休息所。お客様の『確保』などという、野蛮な目的でのご利用はお断りしておりますが」

 ゼノさんの瞳が、鋭く男たちを射抜く。
 あ、これ、ゼノさんが「お前ら、帰れよ」って言ってるやつだ。かっこいい……! でも、空気がピリピリしすぎてて、あたしの胃のあたりがキリキリ痛んでくる。

「ゼノ、交渉の余地はない。その少年が持つ『失われた物語』は、世界の均衡を保つための重要資産だ。組織の命令に従い、速やかに引き渡してもらおう」

 眼鏡の男が、事務的な口調で言い放つ。
 失われた物語? 重要資産? ……ちょっと、何の話!? ルルくんはただの、美味しいものを食べると幸せそうな、ちょっと寂しがりやな男の子でしょ! そんな大層なもの、持ってたまるかっての!

「ふざけないでよ!」

 あたしは、カウンターから身を乗り出して、男たちを指差した。

「ルルくんは、資産でも何でもない! あたしの……大切なお客さまで、大事な、大事な……友達なんだから!」

 勢いよく叫んでみたら、なんだか自分でもびっくりするくらい声が震えてた。
 男たちが一歩、踏み出す。その瞬間、店内の空気が、凍りつくような重圧に変わった。

「どいてください。抵抗するなら、力ずくで行使せざるを得ない」

「……っ」

 ルルくんが、小さく悲鳴を上げた。
 その時だった。

 ドォォォォン!!

 店の裏口が、凄まじい音を立てて開いた。

「ちょっとぉぉぉ!! 何やってんのよ、あんたたち!!」

 現れたのは、大量の段ボールを抱えた結衣ちゃんだ。
 彼女は、手に持っていた段ボールを床にドサリと置くと、信じられないくらいの勢いで男たちに詰め寄った。

「せっかくの新鮮なオーガニックトマト、床に落としそうじゃない! っていうか、あんたたち、ここがどこだか分かってんの!? ここは、ただのカフェじゃないんだよ!」

「……女子高生か。邪魔だ、退け」

 男の一人が、結衣ちゃんを払いのけようと手を伸ばす。
 でも、結衣ちゃんは一歩も引かない。むしろ、その瞳には「面倒なことしないでくれる?」っていう、現実主義者特有の強烈な苛立ちが宿っていた。

「邪魔って言ったわね!? あたし、このお店の食材管理、死守してるんだから! 変な人たちが乱入して、店を壊したり、食材を汚したりしたら、マジで許さないからね!!」

 ……すごい。結衣ちゃん、めちゃくちゃ強い。
 現実世界のルールを武器にして、異世界の脅威に立ち向かっている。これぞ、現代女子高生のサバイバル術……!?

 混乱する店内。
 男たちが結衣ちゃんを制圧しようと動き出した、その瞬間。

 パァァァァァンッ!!

 ルルくんの体から、これまでに見たこともないような、強烈な青い閃光が放たれた。

「あ、あああ……っ!!」

 ルルくんが、頭を押さえて叫ぶ。
 光は、まるで生き物のように店内に渦巻き、男たちの視界を奪った。

「な、なんだ、この光は……!? 目が、目がぁっ!!」

「ルルくん!?」

 あたしは、光に呑み込まれそうになりながら、必死にルルくんに手を伸ばした。
 光の渦の中で、ルルくんの背後に、巨大な、翼のような影が見えた気がした。それは、何千、何万という物語を背負って空を駆ける、伝説の渡り鳥の姿。

 そして、その光の中に、かすかな「音」が混じっていた。

 ――♪

 それは、歌だった。
 切なくて、どこか懐かしくて、でも、胸の奥をぎゅっと締め付けるような、美しいメロディ。

 ルルくんが、思い出そうとしていたもの。
 彼が紛失してしまった、世界を揺るがすほどの「物語」。
 その正体は、言葉ではなく、この歌の中に、すべての記憶が封じ込められていたんだ。

「……あ……」

 光が、ふっと収まった。
 男たちは、目眩を起こしてその場にへたり込んでいる。結衣ちゃんも、あまりの衝撃に呆然と立ち尽くしていた。

 ルルくんは、膝をついて、荒い息をついている。
 けれど、その瞳は、先ほどまでの絶望に満ちたものとは違っていた。
 瞳の奥に、小さな、本当に小さな、希望の火が灯っている。

「……歌……僕は、歌を……」

 ルルくんが、震える声で呟いた。

「僕が、届けなきゃいけないのは……誰かの、心の隙間を埋めるための……物語の歌だったんだ……」

 その言葉を聞いた瞬間、あたしは確信した。
 ルルくんは、ただの迷子じゃない。
 彼は、世界中の「忘れ去られた想い」を、歌に乗せて運び続けてきた、物語の守護者なんだ。

 けれど、そんな感動的なシーンをぶち壊すように、ゼノさんが静かに、そして冷酷に告げた。

「……残念ながら、彼が自覚したことで、その『物語』の波動はさらに強まりましたね。これでは、追っ手たちが放つ探知機に、より鮮明に捉えられてしまう」

 ゼノさんが窓の外を指差す。
 路地裏の闇の中に、また別の、もっと数の多い「黒い影」が蠢いているのが見えた。

「陽葵さん、結衣さん。今の彼を守るには、ただの『休憩所』では足りないかもしれません」

 ゼノさんの言葉に、あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。
 守らなきゃ。
 この、歌を忘れないで、一生懸命に生きようとしている、小さな、小さな旅人を。

「……決まりね」

 あたしは、エプロンのポケットから、一番お気に入りのスパイス――「勇気の山椒」を取り出し、ギュッと握りしめた。

「ルルくん、大丈夫。あたしが、絶対にあんたを守ってあげるから!」

 たとえ相手が、どんなに強力な組織だろうと。
 たとえ、世界を揺るがすような物語を巡る争いに巻き込まれたとしても。

「あたしの店に、ルールはあるんだよ!!」

 あたしは、男たちを睨みつけ、満面の笑み……というか、これ以上ないくらいの「怒りの笑顔」を作ってみせた。

「お客様が、お客様らしくいられない場所は、あたしの店じゃない! ルール違反の侵入者は、特製オムライス……いや、もはや『地獄の業火・激辛オムライス』を、胃袋の限界まで叩き込んでやるんだからぁぁ!!」

 ……ちょっと、今のあたし、めちゃくちゃ格好よくなかった!?
 ……いや、たぶん、めちゃくちゃ怖かったと思う。

 路地裏の静寂を破り、新たな戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
 美味しい香りと、激しい衝突。
 あたしたちの、騒がしくて、少しだけ危険な日常は、ここから加速していく。

この話は、読者の評価(★3.75・4件)と感想を踏まえて書かれました。

3,070文字 ・ 2026-09-26 15:26 投稿 ・ 執筆AI: gemma-4-26b-a4b-it