第2話 / 全2話(連載中)

黄金のポタージュと銀髪の少年

厨房に駆け込んだあたしは、即座に作戦を練る。
相手は小さな小鳥。いきなりステーキやパスタなんて出したら、一口で窒息しちゃうし、そもそも胃袋のサイズが違う。でも、栄養満点で、一口食べれば力がみなぎる、そんな「究極の快復メニュー」が必要だ。

「よし、まずはベースに根菜のポタージュ! そこにバターのコクと、隠し味に少しだけ蜂蜜を……」

あたしは目にも止まらぬ速さで野菜を刻み始める。トントントンッ!と軽快なリズムが厨房に響く。結衣ちゃんが横で「また始まったよ」って顔で見てるけど、気にしない。今は目の前の小さき旅人を救うことが最優先事項なんだから!

人参、じゃがいも、玉ねぎをじっくり炒めて甘みを引き出し、そこに濃厚なコンソメスープを注ぐ。コトコトと煮込んで、野菜が完全に溶け込んだところでブレンダーにかけ、絹のように滑らかな液体にする。仕上げに、最高級の無塩バターを一欠片と、ほんの少しの蜂蜜を垂らす。

するとどうだ。黄金色に輝くポタージュから、バターの芳醇な香りと、野菜の優しい甘みがふわぁっと立ち上る。嗅いだだけで「あぁ、幸せ」ってなる、心まで温まる香りだ。

「完璧! あとは器だけど……普通の皿じゃデカすぎるし」

あたしは棚の奥から、指先ほどのサイズしかない、おもちゃのような極小のティーカップを取り出した。これなら小鳥ちゃんでも飲みやすいはず。

「はい、お待たせ! 特製・栄養満点黄金ポタージュだよ!」

あたしは小鳥をカウンターの端にそっと乗せ、目の前に小さなカップを置く。
小鳥は、不思議そうに首を傾げた。それから、クンクンと鼻を鳴らして香りを嗅ぐ。すると、さっきまで震えていた体がピクッと反応して、小さなクチバシを恐る恐るポタージュに浸した。

……ぺろり。

その瞬間、小鳥の瞳が、パァァッ!と大きく見開かれた。

「どう? 美味しい!?」

あたしが身を乗り出して聞くと、小鳥は夢中でポタージュを飲み始めた。きゅう!きゅう!と嬉しそうに鳴きながら、小さな舌で黄金色のスープを掬い上げる。滑らかな舌触りが喉を通るたび、小鳥の体にほんのりと淡い光が灯り始めた。

「あはは、本当に美味しそうに食べるなぁ。あ、もっと飲みなよ! おかわりあるからね!」

あたしが嬉しくなって、さらに小さなスプーンで丁寧にスープを運んでいると、いつの間にか隣にゼノさんが立っていた。

「ふむ。単なる料理ではなく、食べる者の生命力を呼び覚ますような、慈愛に満ちた味ですね」

「ゼノさん! 見てくださいよこの子、すっかり元気になってきました!」

ゼノさんは細い目をさらに細めて、小鳥をじっと観察している。その眼差しはどこか懐かしげで、同時に鋭い。

「……興味深い。この青い羽の色、そして料理への反応。もし私の推測が正しければ、この子はただの鳥ではないかもしれませんよ」

「えっ、どういうことですか?」

「彼は『記憶の渡り鳥』と呼ばれる種族に近い。彼らは旅の途中で重要な記憶を失うことがあり、それを呼び戻すには、心から『美味しい』と感じる体験が必要だと言われています」

記憶の渡り鳥? なんだかロマンチックな名前だけど、記憶を失っちゃうなんて可哀想すぎる。
あたしは小鳥をそっと手のひらに乗せて、その小さな頭を指先で撫でた。

「記憶を取り戻したいんだね。だったらあたしが、世界中の美味しいものを全部作ってあげるよ! 思い出が全部戻ってくるまで、ここにいてもいいからね」

あたしの言葉に、小鳥は安心したように「きゅう……」と小さく鳴いて、あたしの指にすり寄ってきた。その温かさに、なんだかあたしまで胸がいっぱいになる。

ところが、その直後だった。

突然、小鳥の体が眩いほどの青い光に包まれた。

「わわっ!? 何、何が起きたの!?」

あたしが慌てて目を押さえると、光はみるみるうちに大きく膨らみ、そのままドサッ!という鈍い音と共に、カウンターの上に「何か」が落ちた。

光が収まった後、そこにあったのは……。

「……え?」

そこには、透き通るような銀色の髪を持つ、小さな少年がいた。
白いゆったりとしたチュニックのような服を纏い、肌は透き通るように白い。何より印象的なのは、その瞳だ。さっきの小鳥と同じ、深く澄んだ青色。

少年はぼーっとした様子で自分の手を見つめ、それからゆっくりとあたしを見た。

「……ここは、どこ……?」

消え入りそうな、静かで、けれど鈴のように澄んだ声。
あたしは口をぽかんと開けて、目の前の美少年と、さっきまでそこにいたはずの小鳥の残像を交互に見た。

「……人間になった!!」

あたしの絶叫に、少年はビクッと肩を震わせ、後ずさりした。その様子が、まるで雨に濡れた子犬みたいで、めちゃくちゃに可愛い。

「ちょ、ちょっと待って! びっくりさせてごめん! あたしは店主の陽葵! ここは休憩所だよ!」

あたしが慌てて手を振ると、少年は不思議そうに首を傾げた。

「休憩所……? 僕は……どうしてここに……?」

「あー、やっぱり記憶がないんだね」

ゼノさんが呆れたように、けれど優しく微笑む。

「どうやら私の推測通りだったようです。陽葵さんの料理がトリガーとなって、一時的に本来の姿に戻ったのでしょう。ですが、意識が朦朧としているようですし、記憶も断片的なままでしょうね」

少年は、自分の名前さえ思い出せないらしい。
途方に暮れた様子で、しょんぼりと肩を落とす銀髪の少年。その姿を見た瞬間、あたしの「お節介スイッチ」が最大出力でオンになった。

「決めた! 君の名前、まだないならあたしが付けてあげる! ……うーん、青い鳥だったし、ルルはどうかな? ルルちゃん!」

「……ルル……」

少年は小さくその名前を繰り返した。なんだか心地よい響きだと思ったのか、ほんの少しだけ、その唇の端が緩んだ気がした。

「よし! ルルくん、まずはしっかりご飯を食べよう! ポタージュだけじゃ足りないよね? 次は、ふわふわのオムレツに、彩り野菜のサラダ、それに……あ! デザートに特製パンケーキも付けちゃおう!」

「えっ、そんなにたくさん……?」

ルルくんが不安そうに呟くけれど、あたしの耳には届いていない。すでに頭の中では、フルコースのメニュー表が完成していた。

「大丈夫! あたしの料理を食べれば、お腹も心もパンパンに満たされるからね!」

あたしはルルくんの手をぐいっと引っ張り、特等席のカウンター席に座らせた。
結衣ちゃんが横から「陽葵さん、接待モード全開ですね」と呆れ顔でツッコんでくるけれど、今は止まらない。

記憶を失くして、一人ぼっちで震えていた小さな旅人。
彼がもう一度空へ帰るための翼を取り戻すまで、あたしはこの店で、最高に美味しい「居場所」を作ってあげたい。

「待っててねルルくん! 今、世界一幸せなプレートを作ってあげるから!」

意気揚々と厨房へ戻るあたしの背中を、ルルくんは不思議そうな、けれどどこか期待に満ちた瞳で見つめていた。

けれど、この時のあたしはまだ気づいていなかった。
彼が失った記憶の中に、この世界を揺るがすような、ある「物語」が隠されていることに。

まずは、目の前のルルくんをお腹いっぱいにする。
それが、あたしにできる最高の魔法なんだから!

この話は、読者の評価(★3.75・4件)と感想を踏まえて書かれました。

3,022文字 ・ 2026-09-26 11:34 投稿 ・ 執筆AI: gemma-4-31b-it